Challenge

顧客ニーズへのきめ細かな特殊品対応を強みと
してきたが、近年の短納期要求、価格競争の激
化によって、設計者の負担は増加傾向にあり、特
殊品であっても価格競争、短納期対応、標準品
と同等の品質を確保するための改善策を必要と
してきた。

Solution

2004年にSOLIDWORKSを導入して標準製品の
開発を3次元化した。2008年には、「モジュラーデ
ザイン(MD)」を設計改革手法として捉えて展開。
2012年リリースのモジュール化した新型機では、
従来の特殊品の要求を標準品でカバーし、品質、
納期、コスト面で効果をあげた。2015年からは自
動設計システム開発に着手。さらなる設計時間の
短縮と設計精度向上を狙う。

Results

  • 3次元化で、製品小型化、フロントローディング、解析による設計品質向上
  • モジュール化した製品は、顧客個別対応「特殊品」の設計時間が従来手法の1/10になり負担が激減。納期短縮、コスト低減にも成功
  • モジュラーデザインと3次元CADで設計情報をデジタル化し、要求仕様から設計アウトプットを自動化。これにより設計時間を従来の1/40を目標にシステム開発に取り組む。現在は自動3Dモデリングと自動出図システムを試行中

標準化を徹底してこそメーカーは生き残れる

広島市に本社・工場を置くセムコは、 1982年創業※1のプラス
チック成形周辺装置のメーカーである。プラスチック製品製
造会社は、成形ラインにおいて、混合機・乾燥機・原料輸送な
どのさまざまな周辺装置を用いる。顧客個別の要望にきめ細
かく応え、小回りのきくサービスを提供できることを強みとし
てきた。
近年の顧客ニーズは、より多様化し、標準品をカスタマイズし
て個別要求に応えることが常態化している。設計者は「受注ご
とにどこかが少しだけ違う仕様」の「特殊品」に対応するため、
日々過去の類似品に手を加える流用設計に追われていた。
流用設計による個別対応が当たり前になると、事実上「標準
品」がなくなる。新規作成や部分修正した図面は新たな部品
をうみ出し、設計者の負担増、コスト増、納期の長期化、品質
の低下を招く元となっていた。これらの課題を解決するため
の抜本的な解決策を必要としていた。
この問題を解決する方策として、セムコでは標準化を進め機
能モジュールを整理し、モジュールの組み合わせを変えるこ
とで個別対応ができる「設計モジュール化」が最良だと判断を
した。ただし「設計モジュール化」を実現するには、設計の 
3次元化が不可欠である。

「標準化にはこれまで何度も取り組んできましたが、 2次元
CADの時代にはその効果が一時的なものにとどまっていまし
た。2次元データは『フルデジタル情報』ではないため、変革
効果が広がっていかないのです」と、製造部合理化 /開発グ
ループマネージャーの森田宏氏は分析する。 
2次元データでは、設計モジュール化も不可能である。「モ
ジュールAの横方向の寸法だけ修正し、前回のモジュールB
ではなく、今回はモジュール Eと組み合わせる」ということが2
次元では簡単にはできない。標準化と設計モジュール化とい
う変革を行うには、設計3次元化が大前提として不可欠なの
である。

「設計モジュール化のみならず、3次元CADは、問題を前倒し
で発見・解決するフロントローディング、 PDMを活用しての協
調設計、解析による設計品質向上と試作レスなど、さまざま
な変革効果をもたらすものづくりの基盤技術だと捉えていま
す」と森田氏は語る。


SOLIDWORKSを導入して短期間での設計 3次元化に成功

特殊品対応の効率化を図るべく同社では、2000年ごろから設
計3次元化を模索してきた。 
3次元CAD製品としては、当初から SOLIDWORKSに注目して
いた。機能・操作性の完成度が高く、国内・世界でのシェアが高
く連携製品が豊富にあること、導入事例が多数紹介されていて
同業他社の使い方を参考にできることなどを評価したからだ。
さらに2003年、体験版を実際に操作してみる機会を得て 
SOLIDWORKSに決定した。「もともと、設計データを再利用し
たり後工程へ展開したりするために、ヒストリー型CADが必須
だと考えていました。ただ、初めて3次元設計に取り組む設計
者には、ヒストリー型はとっつきにくいのではないか、という懸
念もあったのです。 
SOLIDWORKSのFeature Managerデザインツリーは、こ
の懸念を払拭してくれました。すべてのフィーチャーと設計
手順を確認でき、ヒストリーが非常にわかりやすい。Feature 
Managerデザインツリーは、加工担当者には加工手順に見え
ますし、電気設計者・ソフトウェア設計者にはプログラムに見え
るのです」と森田氏は語る。
2004年、セムコは SOLIDWORKSを導入した。翌2005年に
は、3次元設計の第1号製品を展示会に参考出品。2006年か
らは、3次元設計した製品を量産するようになった。順調な 
3次元化はさっそく、製品小型化、設計品質向上などの効果をもた
らした。その好例が、2006年に開発した「原料輸送制御用の
専用設計コントローラ」だ。

「2006年当時の考え方に基づき、電気設計と機械設計とを設
計モジュール化して融合しました。新開発の制御回路をはじ
め、基板、電子部品を限られたスペースに干渉なく収めること
ができ、3次元設計は製品小型化に絶大な効果があることを
実感しました」と森田氏。
またSOLIDWORKS上での板金モデル生成は、設計と加工と
を近づける契機にもなった。「コーナー部のトリム形状や、合わ
せ面の隙間調整は、従来は後工程の加工担当者が追加
調整しており、設計者は意識していませんでした。

『SOLIDWORKSの板金モデルで展開できないものは、実際
の加工でも曲げられない』。設計者がこのことを明確に認識し
てくれたことは、その後のフロントローディングを進めていく
うえでの大きな一歩でした」と森田氏は指摘する。
さらに、SOLIDWORKS Simulation Xpressで解析を行うよう
になってからは、設計品質が向上し、試作回数を減らすことが
できた。試作段階で発生する製品スクラップも激減した。「解
析には手間がかかりますが、トータル開発期間は短縮できまし
た。また、なぜこの板厚なのか、どうして補強材が必要なのか、
設計の意図と根拠を加工担当者へ説明できるようになった意
義も大きい」と森田氏は言う。

「SOLIDWORKSを採用してよかったのは、シェアが高いため、周辺のアプリケーションが充実していること、そしてCADを取り巻く環境が日々進化していく勢いを持っていることです。当社は、機構のみならず、電気系統も一貫して設計自動化しようとしていますから、プリント基板設計ができるSOLIDWORKS PCBにも注目し、期待しています」。

森田宏氏
セムコ株式会社 製造部合理化/開発グループマネージャー

設計革新と製品革新を融合してヒット商品を生み出す

従来は標準化といえば「モノ」に着目して行ってきたが、特殊
品にのまれ長続きしないことが多かった。3次元設計が定着し
た2008年からは、「設計方法」から標準化する「モジュラーデ
ザイン」 ※2を取り入れ、設計革新に着手した。
まずセムコの主力製品である混合機をターゲットに既存製品
をモジュール化し、独自の理論的設計法を作成して、設計手
順を明文化した。
設計情報はもちろん、加工情報までフルデジタル化できる3
次元の特徴を活かして、設計革新を進めたのだ。2011年に
は顧客ニーズをつかむためにアンケート調査をした。
その結果、混合機では処理能力以上に、装置の小型化と、樹
脂ペレットの配合可能数増大が望まれていることがわかっ
た。そこで、「計量混合時間を短縮する」技術開発を行い、飛躍
的な小型化を実現した。配合数拡大というニーズには、従来
機は最大6種類配合だったが、新製品は最大8種類配合に拡
大できたのである。
モジュール化という設計革新と小型化、配合数拡大という製
品革新を合わせた新製品開発に取り組んだ。モジュール化し
た新型機は、理論的に整理した標準部品の組み換えにより、1
つのボディで製作可能なバリエーションが約 1,000万通りに
なり、仕様の適応幅は格段に広がった。 3次元CADのコンフィ
ギュレーション機能を使い、これらの組み合せも容易に対応
できた。
結果、 2013年に発売した質量計量式混合機「FB1シリーズ」
は、狙いどおりに顧客から好評を博すことができた。多くの顧
客ニーズを満たしたうえ、設計時間、コストも低減、かつ市場
競争力も高まった。設計革新と製品革新との融合に成功した
事例だといえるだろう。


「設計時間40分の1」を目標に自動設計システムを開発

進化は続く。 2015年には、設計自動化への取り組みが始まっ
た。新製品はモジュール化と 3次元CADの効果によって、設計
時間は個別顧客向けであっても 2次元設計で行っていた従来
型の10分の1と激減していたが、誰でも確実により高速にでき
るようにするため、自動設計システムを開発中である。

現段階は、EXCELテンプレートに組み換え可能な部位 
100項目に対してモジュール部品を選択し入力すると、 
SOLIDWORKSが約3,000の部品からなる 3次元モデルを自
動生成し、部品図のピッキング、製作手配用の部品表を自動出
図するシステムを試行中である。

目指す姿は、顧客要求仕様を入力すれば、見積書、仕様書、3次
元モデル、2次元図面、部品表、手配表回路図、制御パラメータ
などの設計情報を合わせて出力するシステムである。このシス
テムが適合する製品であれば、設計者の作業がほぼ不要にな
る。従来型の40分の1の設計時間を目標にシステム開発を進
めている。

メーカーとして IoT時代を乗り切るためには、要求仕様から設計
アウトプットまで一気通貫デジタル化が欠かせない。デジタル
化できれば自動化が可能になる。そして、モジュラーデザイン
と3次元CADは必須の手法とツールとして位置づけている。
顧客ニーズの多様化は今後さらに進むに違いない。セムコは
顧客個別の要望にきめ細かく応え、大手他社が手を出さない
「特殊品」を「標準化」することで、収益率をあげることのでき
るものづくり環境を手に入れたのである。