標準化を徹底してこそメーカーは生き残れる
広島市に本社・工場を置くセムコは、 1982年創業※1のプラス
チック成形周辺装置のメーカーである。プラスチック製品製
造会社は、成形ラインにおいて、混合機・乾燥機・原料輸送な
どのさまざまな周辺装置を用いる。顧客個別の要望にきめ細
かく応え、小回りのきくサービスを提供できることを強みとし
てきた。
近年の顧客ニーズは、より多様化し、標準品をカスタマイズし
て個別要求に応えることが常態化している。設計者は「受注ご
とにどこかが少しだけ違う仕様」の「特殊品」に対応するため、
日々過去の類似品に手を加える流用設計に追われていた。
流用設計による個別対応が当たり前になると、事実上「標準
品」がなくなる。新規作成や部分修正した図面は新たな部品
をうみ出し、設計者の負担増、コスト増、納期の長期化、品質
の低下を招く元となっていた。これらの課題を解決するため
の抜本的な解決策を必要としていた。
この問題を解決する方策として、セムコでは標準化を進め機
能モジュールを整理し、モジュールの組み合わせを変えるこ
とで個別対応ができる「設計モジュール化」が最良だと判断を
した。ただし「設計モジュール化」を実現するには、設計の
3次元化が不可欠である。
「標準化にはこれまで何度も取り組んできましたが、 2次元
CADの時代にはその効果が一時的なものにとどまっていまし
た。2次元データは『フルデジタル情報』ではないため、変革
効果が広がっていかないのです」と、製造部合理化 /開発グ
ループマネージャーの森田宏氏は分析する。
2次元データでは、設計モジュール化も不可能である。「モ
ジュールAの横方向の寸法だけ修正し、前回のモジュールB
ではなく、今回はモジュール Eと組み合わせる」ということが2
次元では簡単にはできない。標準化と設計モジュール化とい
う変革を行うには、設計3次元化が大前提として不可欠なの
である。
「設計モジュール化のみならず、3次元CADは、問題を前倒し
で発見・解決するフロントローディング、 PDMを活用しての協
調設計、解析による設計品質向上と試作レスなど、さまざま
な変革効果をもたらすものづくりの基盤技術だと捉えていま
す」と森田氏は語る。
SOLIDWORKSを導入して短期間での設計 3次元化に成功
特殊品対応の効率化を図るべく同社では、2000年ごろから設
計3次元化を模索してきた。
3次元CAD製品としては、当初から SOLIDWORKSに注目して
いた。機能・操作性の完成度が高く、国内・世界でのシェアが高
く連携製品が豊富にあること、導入事例が多数紹介されていて
同業他社の使い方を参考にできることなどを評価したからだ。
さらに2003年、体験版を実際に操作してみる機会を得て
SOLIDWORKSに決定した。「もともと、設計データを再利用し
たり後工程へ展開したりするために、ヒストリー型CADが必須
だと考えていました。ただ、初めて3次元設計に取り組む設計
者には、ヒストリー型はとっつきにくいのではないか、という懸
念もあったのです。
SOLIDWORKSのFeature Managerデザインツリーは、こ
の懸念を払拭してくれました。すべてのフィーチャーと設計
手順を確認でき、ヒストリーが非常にわかりやすい。Feature
Managerデザインツリーは、加工担当者には加工手順に見え
ますし、電気設計者・ソフトウェア設計者にはプログラムに見え
るのです」と森田氏は語る。
2004年、セムコは SOLIDWORKSを導入した。翌2005年に
は、3次元設計の第1号製品を展示会に参考出品。2006年か
らは、3次元設計した製品を量産するようになった。順調な
3次元化はさっそく、製品小型化、設計品質向上などの効果をもた
らした。その好例が、2006年に開発した「原料輸送制御用の
専用設計コントローラ」だ。
「2006年当時の考え方に基づき、電気設計と機械設計とを設
計モジュール化して融合しました。新開発の制御回路をはじ
め、基板、電子部品を限られたスペースに干渉なく収めること
ができ、3次元設計は製品小型化に絶大な効果があることを
実感しました」と森田氏。
またSOLIDWORKS上での板金モデル生成は、設計と加工と
を近づける契機にもなった。「コーナー部のトリム形状や、合わ
せ面の隙間調整は、従来は後工程の加工担当者が追加
調整しており、設計者は意識していませんでした。
『SOLIDWORKSの板金モデルで展開できないものは、実際
の加工でも曲げられない』。設計者がこのことを明確に認識し
てくれたことは、その後のフロントローディングを進めていく
うえでの大きな一歩でした」と森田氏は指摘する。
さらに、SOLIDWORKS Simulation Xpressで解析を行うよう
になってからは、設計品質が向上し、試作回数を減らすことが
できた。試作段階で発生する製品スクラップも激減した。「解
析には手間がかかりますが、トータル開発期間は短縮できまし
た。また、なぜこの板厚なのか、どうして補強材が必要なのか、
設計の意図と根拠を加工担当者へ説明できるようになった意
義も大きい」と森田氏は言う。