設計・製造のスマート化の第一歩は、紙からの脱却
金剛が主力とする移動棚や免震棚は、顧客の用途や設置場所の制限やレイアウトによりカスタムされるため、多種多様な製品があり、オーダーに柔軟に対応できる生産体制が必須だ。別寸法や別形状の流用設計が多く、設計の管理は手間がかかる。さらに熊本県は年々人口が減少しており、今後は労働人口の減少も予想されていた。
震災からのなるべく早い復興を目指しながら、将来の人手不足への対策を講じることが金剛の新工場の課題となった。よって新工場では、「なるべく少ない人数で効率と生産性を高めること」を目指すことになった。そのためには、手作業などで手間のかかるルーティンは極力自動化し、人の思考や手作業を有効活用できるプロセスを実現しなくてはならない。まずは3次元CADを導入して設計データの一元化を進め、3次元データを活用して生産のスマート化を図ることが必須要件であった。
製造本部副本部長の大野聡氏は、2次元CADや紙図面ベースのプロセスの非効率について述べた。「もともと設計は2次元CADで行っていて、紙の図面ベースで生産現場とやり取りをしていました。これでは時間がどうしてもかかります」
同社がまず目を付けたのが、ミッドレンジクラスの3次元CADであった。3次元データで設計をしていれば、紙の図面を目視で読んで工作機械やシステムにデータを手入力するような作業は減らせるし、データは設計レビューや営業活動などにも利用できる。他にも、3次元データがあることで可能なアイデアはいろいろ思い浮かぶ。大野氏らは、設計を2次元から3次元へ移行できないかと検討しながら、ブランド選定していった。
CADの選定においては、「パラメトリック3次元CAD」であることを必須条件とした。金剛のように規格の流用品やオーダー製品の種類が全体の7割ほどを占める場合、3次元CADの導入効果を出すならば、パラメトリックの利点と寸法拘束をフル活用すべきである。一方、2次元CADに慣れた設計者は、「寸法拘束」という今まで経験しなかった概念に慣れなければならない。金剛では流用設計が多数発生する。3次元CADを導入したからといって、過去の設計データがすぐに3次元データになるわけではない。当然、流用元は2次元CADデータや紙図面が多くなる。なかなか、3次元CADを使うモチベーションが高まらない。
「特に教育には力を入れるようにして、ITベンダーや熊本県産業技術センターの3次元CADの講習も利用しました。最初は、社内でも特にモチベーションが高い社員をセレクションしてそこへ送り込みました。そして彼らが社内に戻り、OJTで展開しました。また3次元CADを使うモチベ―ションを高めるために、資格手当などの福利厚生の充実を検討しています」(大野氏)。
金剛では3次元CADの設計を浸透させるために、社内の運用ルールや作図ルールを試行錯誤しながら整備をすすめていったという。