Challenge

少しでも早い復旧と復興を目指しながら、未来へのビジネス戦略にも取り組むべく、新工場を完工する。
新工場においては、変種変量生産において、少ない人数でも効率よく作業を進めて成果を出せる設計・製造プロセスを作り上げたい。そのために、生産管理やMES、CAMとの連携を実現すること
で、開発設計から生産製造までの一気通貫の3次元データ活用をかなえる。

Solution

まず新規開発製品の設計でSOLIDWORKSを利用。
社内に浸透させるために、特に技術者教育に力を注いだ。その3次元設計データやCAMデータ出力機能、板金設計アドインなどを活用し、生産管理システムや工作機械で活用できる体制を整えた。
3Dプリンタを使い、設計現場での部品試作や治具製作にも取り組んだ。

Results

  • CAD/CAM連携、3次元化推進で、設計工数は約2分の1削減し、リードタイム短縮も実現した。
  • 3Dプリンタ活用により、顧客の部品への要望に対して柔軟かつ迅速に対応できるようになった。
  • 3次元データと生産管理システムの連携を実現し、新工場における生産の自動化の基礎を作った。

2度の大災害から復活を遂げた、不屈の金剛

熊本市を本社拠点とする金剛は、書架や移動棚、免震棚などを製造する、創業73年のスチール家具メーカーである。
現在はスチール棚の製品開発にとどまらず、博物館や図書館などの空間デザインの領域へも取り組み売り上げを大きく伸ばしている。そんな金剛であるが、その長い歴史の中で2度にわたり大災害を経験している。

金剛の起源は、1947年に熊本市内の測量・製図機器商社であった「金剛測量製図器械店」である。1951年に「金剛株式会社」を設立。株式会社としてスタートした約2年後である1953年6月、総降水量が1000mmを超える集中豪雨が九州地方北部を襲った。熊本県中北部を流れる白川が氾濫し、熊本市内の広範囲を襲う大水害へと発展した。「6.26大水害」である。熊本市内の金剛も被災。社屋にあった9割の商品が水没してしまった。しかし金剛は復旧と復興に奮闘し、被災から2年後の1955年には新装記念のビジネスショーを開催、さらに1957年にはメーカーへ転身しスチール家具工場を新設するまでに復活した。

その後、金庫や書架、移動棚、免震移動棚と取扱製品を増やしながら、スチール家具メーカーとして順調に成長。1995年の阪神・淡路大震災が発生した当時、被災地の約30カ所の企業などに導入された同社の免震書架「免震移動棚Z」はどれも倒れることがなく、「免震の金剛」と名を馳せることになった。しかし6.26大水害から約60年後、また金剛に大災害が襲い掛かる。2016年4月に発生した「熊本地震」である。熊本地震は最大で震度7を観測した大地震となり、熊本市内は土砂災害や家屋倒壊に見舞われた。そして金剛の塗装設備は再起不能なほどの大打撃を受けたのである。

「金剛の製品を待っているお客様を長い間待たせるわけにはいかない」という思いの下、金剛の代表取締役社長である田中稔彦氏はひるまなかった。復旧と復興と同時に、未来への戦略も進めようと動きだした。金剛は2017年からIoT(モノのインターネット)を駆使したスマート工場新設のプロジェクトを開始。復旧と復興の取り組みを並行させながらにもかかわらず、2018年3月に新工場を完工。同年11月には本格稼働を開始した。

 

 

設計・製造のスマート化の第一歩は、紙からの脱却

金剛が主力とする移動棚や免震棚は、顧客の用途や設置場所の制限やレイアウトによりカスタムされるため、多種多様な製品があり、オーダーに柔軟に対応できる生産体制が必須だ。別寸法や別形状の流用設計が多く、設計の管理は手間がかかる。さらに熊本県は年々人口が減少しており、今後は労働人口の減少も予想されていた。

震災からのなるべく早い復興を目指しながら、将来の人手不足への対策を講じることが金剛の新工場の課題となった。よって新工場では、「なるべく少ない人数で効率と生産性を高めること」を目指すことになった。そのためには、手作業などで手間のかかるルーティンは極力自動化し、人の思考や手作業を有効活用できるプロセスを実現しなくてはならない。まずは3次元CADを導入して設計データの一元化を進め、3次元データを活用して生産のスマート化を図ることが必須要件であった。

製造本部副本部長の大野聡氏は、2次元CADや紙図面ベースのプロセスの非効率について述べた。「もともと設計は2次元CADで行っていて、紙の図面ベースで生産現場とやり取りをしていました。これでは時間がどうしてもかかります」

同社がまず目を付けたのが、ミッドレンジクラスの3次元CADであった。3次元データで設計をしていれば、紙の図面を目視で読んで工作機械やシステムにデータを手入力するような作業は減らせるし、データは設計レビューや営業活動などにも利用できる。他にも、3次元データがあることで可能なアイデアはいろいろ思い浮かぶ。大野氏らは、設計を2次元から3次元へ移行できないかと検討しながら、ブランド選定していった。

CADの選定においては、「パラメトリック3次元CAD」であることを必須条件とした。金剛のように規格の流用品やオーダー製品の種類が全体の7割ほどを占める場合、3次元CADの導入効果を出すならば、パラメトリックの利点と寸法拘束をフル活用すべきである。一方、2次元CADに慣れた設計者は、「寸法拘束」という今まで経験しなかった概念に慣れなければならない。金剛では流用設計が多数発生する。3次元CADを導入したからといって、過去の設計データがすぐに3次元データになるわけではない。当然、流用元は2次元CADデータや紙図面が多くなる。なかなか、3次元CADを使うモチベーションが高まらない。

「特に教育には力を入れるようにして、ITベンダーや熊本県産業技術センターの3次元CADの講習も利用しました。最初は、社内でも特にモチベーションが高い社員をセレクションしてそこへ送り込みました。そして彼らが社内に戻り、OJTで展開しました。また3次元CADを使うモチベ―ションを高めるために、資格手当などの福利厚生の充実を検討しています」(大野氏)。

金剛では3次元CADの設計を浸透させるために、社内の運用ルールや作図ルールを試行錯誤しながら整備をすすめていったという。

「SOLIDWORKS はとにかく使いやすい。無料講習会も多く、インターネット上の検索では使い方の情報も多く、学習しやすいと感じ、選定をしました。当社の工場生産の8 割が板金加工ものです。アマダの工作機械の3 次元ソリッド板金CAD システム『SheetWorks』と連携対応していたことが大きな決め手になりました。SOLIDWORKS 導入で、紙中心の手間のかかる管理から解放され、設計データを活かし生産側に流せるようになりました」

上村 直也 氏
開発グループ 開発一チーム チームリーダー

SOLIDWORKSの3次元データがつなぐ設計・製造

実際に3次元CADで設計実務を行っており、ソフトウェアの選定にもかかわった、製造本部開発グループ開発一チームのチームリーダーである上村直也氏は、SOLIDWORKSが選ばれた理由について、次のように述べる。「SOLIDWORKSはとにかく使いやすい。無料講習会も多く、インターネット上の検索では使い方の情報も多く、学習のしやすさもあります。また、当社の工場生産の8割が板金加工です。アマダの工作機械の3次元ソリッド板金CADシステム『SheetWorks』と連携対応していたことが大きな決め手になりました。」

SOLIDWORKSの3次元データをSheetWorksを経由させて板金加工する、3Dモデルに定義された部品名称や材料、数量などのプロパティをCSVで出力して部品リストへ取り込むなど、設計データを直接生産や調達で活用できるようになり、紙図面の時と比べて大幅に効率化を図れたという。金他にも、SOLIDWORKSの3次元データが役立つ場面がある。「営業は紙の図面の内容をぱっと正確に理解できません。3次元CADがあれば製品の3D形状を見せながら話ができるため、営業との打ち合わせを進めやすくなりました。SOLIDWORKSと合わせて3Dプリンタも導入したのですが、生産部門に依頼しなくても設計部の中ですぐ試作品が作れるようになり、スピーディーな繰り返しの検討が可能になりました。今は板金の曲げ加工に使う治具も設計側が3Dプリンタで作っています」(上村氏)。3Dプリンタでの治具製作は、顧客の要件ごとで細かく異なる部品加工に対応できることがメリットだ。

現在、上村氏らは、3次元モデルの作図ルールを整備している。「誰でも部品を編集できる」「検証者のチェックを容易にする」「提案図に展開して次工程を容易にする」といったことを目的として掲げる。社内の知恵だけでは整備が難しく、外部のコンサルタントの力も仰いだ。

作図ルールでは、「マザーモデル」という流用元になる3次元データを整備し、担当機種に適したマザーモデルの選定や、設計基準や構成部品の扱い方などを規定している。またSOLIDWORKSのコンフィグレーション機能を利用して、選定部品の確認をしやすくした。

 

3次元データを活用したスマート工場への取り組み

新工場を完工する前から、金剛では「ものづくり補助金」の採択を受け、IoTを利用した生産の自動化に取り組み始めていた。板金加工の作業をする7軸多関節ロボットと角度センサーが連携して、さまざまな形状の板金加工に対応できるようにした。ロボットにはSOLIDWORKSからCAMを介しデータを送る。従来の加工法と比較してリードタイムは約半分になり、この経験は新工場へも活かされた。

完工した新工場ではSOLIDWORKSの3次元データを用いた生産自動化の範囲を広げている。レーザー加工を用いた高精度かつ複雑な板金切断や、ロボットによる自動化により、変種変量の生産体制は従来の工場より大幅に効率化された。3Dのマザーモデルは自動化でうまく活用できるよう、さらなる改良を進めており、設計工数の3割削減を目指している。

なお、この取り組みは「MESを中心とした工場システムと生産設備の相互接続による工場IoT化」として、2019年12月に政府が発表した「第8回ものづくり日本大賞」の「Connected Industries ‒ 優れた連携」部門において、経済産業大臣賞を受賞。「工場のIoT化を行うなど中小企業のIoT化のモデル工場であり、人手不足の解消に大きく貢献」と評価された。かつては自動書庫の無人搬送システム開発にも携わりIoTの技術にも明るい、開発グループ グループリーダーの山下暁氏は、ロボットによる自動化やIoT、新工場システム全体におけるデータ連携などを担当する。「SOLIDWORKSには材料や製造など部品に関する情報が盛り込まれているため、それをいかに有効活用するか、今も検討を進めている最中です」その苦労について山下氏は、「設計・製造の現場の人の中には、新しいものを受け入れ難いという人も少なくありません。私は『先に行動を起こすこと』に特化してやってきました。組織を横断してコミュニケーションを取り、情報を集めながら、徐々に意識を変えていくようにしました」と話す。「お客様を待たせたくない、震災から早く復興したいという気持ちが、プロジェクトを強く推し進めた部分はあると思います」「新工場システムは、大半が自社でスクラッチ開発しており、現業と並行しながら開発するため、品質保持と安定稼働、全体の効果がきちんと出るまでには、まだ2年はかかるとみています」(山下氏)。今後、新工場ではさらなる自動化の高みを目指す。BIMデータや、社外とのデータ連携も視野に入れているとのことだ。2016年4月の熊本地震からはや4年。熊本県内の復旧・復興はまだ道半ばであるが、地元企業・金剛が不屈の精神で未来を創り続けている。