Challenge

3次元モデル解析で、品質向上、材料使用量最適化、新しいデザインの実現を目指す。ポイントは、異方性材料である木材の割れ、折れ、伸縮の予測。

Solution

ミッドレンジ3次元CAD対応の解析ソフトを複数検討したうえで、異方性解析ができ、しかも将来性豊かで業務プロセス変革の武器ともなるツールとして、SOLIDWORKS Simulationを選定。設計に用いているThinkDesignから中間ファイルSTEPを経て、3次元モデルをSOLIDWORKSへ取り込み、強度解析を行う体制を整備。

Results

  • 既存品や新製品の弱点発生箇所可視化と、対策シミュレーション
  • 相対評価として、負荷の傾向把握に成功

日本最大の木製家具メーカーであるカリモク家具株式会社
を中心に、国内7カ所の家具生産会社、国内外4カ所の資材
会社など14社が結集したのがカリモクグループである。同グ
ループは、2015年にSOLIDWORKS Simulationを導入。
木製家具の強度解析による「品質向上」「材料使用量の適正
化」、そして、「新しくしかも安全なデザインの実現」に取り組
んでいる。


木製家具の強度解析には「異方性」対応が必須

 「資材会社を自社保有して、製材段階から家具のための素材
作りを徹底しているのが、カリモクグループの特徴です」と、カ
リモク皆栄株式会社 技術部基礎研究課 課長の富田龍彦氏
は紹介する。カリモク皆栄は、カリモクグループにおける企画
開発・マネジメント会社であり、技術部基礎研究課は、生産工
程の品質管理・技術革新・試験等を担当している。
カリモクグループのものづくりは、1997年にThinkDesign 
を導入し、早くから完全3次元化を果たしてきた。
「当初から、解析も同時に行って3次元化の効果をより大きく
したいと考えていました」と富田氏。しかし、木材は、金属など
と異なり、物性が方向に依存する 異方性 材料である。90年
代には異方性解析のできるシミュレーションソフトが見当たら
なかったため、導入を先送りにした。


SOLIDWORKS Simulationは「プロセス変革の力を持つ」と期待

解析の目的は、「品質向上」、「材料使用量の最適化」、「新しい
デザインの実現」の3点だ。
「お客様に安心安全な家具を届けることは、私たちの最大の
使命です。そのため設計者は安全率を多めにとりがちであ
り、過剰仕様になりやすい。適正な材料使いでコストを下げ、
チャレンジングなデザインも、安全を確保しつつ実現してい
きたい」と富田氏は説明する。
これまでは、安全性を確保する最大の手段は、作っては壊す
苛酷な強度試験を何回も繰り返すことだった。
しかし、社内試験合格仕様なのに、納品してから壊れる製品も
ある。追求すべきは、割れ、折れ、伸縮の「予測」と「事前の設計
対応」だ。また近年は、何をどこまでやったら壊れるのかを、事
前に明記しておく説明責任が求められる傾向が強い。
2015年、カリモクグループはいよいよ、3次元モデルを使っ
た解析に本腰を入れることにした。
最大の難関は、材料の物性値が解析ソフトにデフォルト登録
されていないことだ。木材は、樹種、生産地、乾燥状態などで
性質が異なるうえ、個体差も大きい。しかもカリモクグループ
は、家具用途に限定した製材を行っているため、物性値デー
タベースは自社構築していく必要があった。
「海外の解析ソフトを入手していろいろ研究しましたが、グ
ループ全体のビジネスで使うには、日本語資料やトレーニン
グが整った市販ソフトを導入し、ベンダーの支援を利用しな
がら早期立ち上げ・早期社内展開を重視すべきと考えました」
と富田氏は言う。
ミッドレンジ3次元CAD対応の複数製品で、異方性解析
ができるものに絞って比較検討した結果、選定したのが、
SOLIDWORKS Simulationである。

「評価したのは、SOLIDWORKSというCADの将来性です。
CADもCAEも、個別の機能以上に、プロセス変革の力を
持っていることが重要だと私たちは考えています。その点、
SOLIDWORKSは、モデリング、データ交換、CAM連携など、
わたしたちの全業務をカバーできる力があります。解析も、
SOLIDWORKS Simulationであれば、仕事の流れに組み込
み、業務プロセス全体を変えられるのではないかと期待して
います」と富田氏は語る。

「家具用木材の物性値データベースを作るのは非常に大変ですが、辛抱強く作れば貴重な企業資産となり、またとない強みともなるでしょう。シミュレーションにはそれほどに大きな可能性があります。SOLIDWORKS Simulationを信頼性の高い検証システムへと育て、実試験の回数を減らし、最終的には、プロセス改革の武器にしたい」。

富田 龍彦 氏
カリモク皆栄株式会社 技術部 基礎研究課 課長

導入5カ月で各種負荷の傾向把握に成功、相対評価には自信

カリモクグループは、2015年9月、SOLIDWORKS Proと、
SOLIDWORKS Simulation Premiumを1ライセンスずつ
導入。7カ所ある生産工場の設計者が共用できる体制を整え
た。
新しいツールが加わるのは、設計者にとっては負担だ。しか
し、品質、コスト、説明責任などに対する要求が高まっている
ことはみんなわかっている。そこで富田氏は、グループ全体
でプロジェクトを組織し、役割も決め、事例作成を計画的に積
み重ねることで、社内機運盛り上げに気を配っている。勉強会
も月2回開き、成果発表と情報交換を活発に行う。

工場Aでは、既存のベンチ製品で使っている補強部品の厚
みや長さを変えて、前下桟のたわみの増加状況をシミュレー
ションした。補強部品の長さを1475ミリから1380ミリへと
変えた時点で、変位量が大きく変化することも可視化でき
た。そして、厚みや長さを変えたことで発生する弱点を既存ベ
ンチと同等になるまで補強するための対策箇所、対策方法、
設計への反映などを検討した。

工場Bでは、4本脚のダイニングテーブルについて、脚をカッ
トして短くした場合の強度の変化を確認。やはり、弱点発生箇
所の特定、対策方法などをシミュレーションした。

工場Cでは、ソファ新製品の骨組み作成前の設計事前検証を
行った。既存ソファに比べて大きな仕様変更を行ったので強
度を確認したかったからだ。シミュレーションの結果、応力や
変位量に大きな変化は発生していないことを確認できた。た
だし、フレーム枠の内側に最も強い応力が発生することがわ
かったため、その部分の接着剤塗布に留意した。

また、研究途上の事例もある。
ソファは、人が座ったとき、まれに異音が発生することがある
が、音の発生箇所・原因を特定するのはむずかしい。工場Dで
は、購入客からのクレームに修理対応して、3カ所への補強駒
追加、上桟の前後へのすき間確保を行った案件を、後追い検
証してみた。
SOLIDWORKS Simulationには、異音発生を特定機能は備
わっていない。そこで、荷重をかけ、負荷のかかる箇所や変形
部分をみつけることで、異音発生源の候補を抽出し、事前の
予防対策ができるようにすることを目指した。しかし、補強駒
追加・すき間確保の対策前と対策後で、応力値、応力分布には
大きな変化は現れず、異音発生原因の特定ができなかった。
それでも、部品各部への負荷状況は把握できたため、今後は
解析結果を見直しながら、異音発生源を特定する、より良い
方法を探していく。
「SOLIDWORKS Simulation導入5カ月目の現段階では、相
対評価に手応えを感じています。負荷の『傾向把握』はできる
でしょう。次段階では、実試験結果と突き合わせることで、解
析の精度、信頼性を上げ、『こういう結果が出たので、この設
計はNGだ』とはっきり言えるような絶対評価へ近づけていき
たい」と富田氏は意欲的に語った。