Challenge

寸法の誤差を管理できない環境が、コストのかかる廃棄や再設計、ブランドへのダメージにつながる恐れがある。

Solution

Sigmundソフトウェアの導入により、設計段階で公差とアセンブリ ビルドを解析できるようになった。

Results

人生において誤差はスパイスになりますが、メーカーにとっては悩みの種です。設計者やエンジニアは、生産ラインから生まれる製品には避けられない誤差があることを常に考慮しなければなりません。製品開発サイクルのスタート時点から誤差に対する準備を行う企業(たとえばFord)もあれば、何も準備せずに製造を開始し、問題が発生したら後から対処する企業もあります。

誤差によって起きる問題を理解するためには、完璧な製品はないという事実を念頭に置いておく必要があります。コンピュータ支援設計(CAD)データは、お客様の手元に届く製品の実際の品質や性能ではなく、理論上の設計意図(理想の状態)を示します。CADが製品を製造するわけではなく、実際の製造プロセスとアセンブリ プロセスで製品を生産します。そのため、設計がCADでは適切に見えても、工場で正しく作られるという意味ではありません。

直径1インチのシリンダのような単純な製品でも、実際にはきっちり1インチで作られることはありません。厚さがわずかに違う、真円でないといった状態で工場から出荷されます。製品設計者が指示した公差(それと工場の製造能力)によっては、誤差が非常に大きくなり、他の可変部品と組み合わせたときに、完成品に不具合が生じる可能性があります。

すべての設計にリスクは潜んでいます。複数の報告によると、廃棄や手戻りの半数は不適切な公差や不十分な誤差管理が原因で起きています。そして企業は、再設計、エンジニアリングの変更、リコール、保証、法的責任、リリースの延期、頻発する製造関連の問題、ブランド イメージの低下など、低品質の製品の代償として発生する問題に多額の費用を費やしています。シックス シグマの10個の「重要品質要因」のうち、およそ8個は寸法の誤差管理に関するものです。

「不十分な結果を恐れず、計算した設計を使用することはできます」とVaratechのCEO、Bob Gardner氏は説明します。Varatechは、公差・アセンブリ ビルド解析ソフトウェアのSigmund®を開発した会社です。「しかし、可変部品間の重要な関係性に対する認識が欠けているせいで、リリース時に問題が見つかり不意打ちを食らうとなると話は別です。事前にビルドの品質目標が定義されておらず、設計の最終段階になって公差データが勝手に変えられただけで、このような状況が発生し、非常に高額の代償を払うことになります」

設計とび製品ビルドの品質をあらかじめ決める

Gardner氏は、事前にビルド品質目標を定義しておくことが重要であるとし、そうした目標は、組み付け、仕上げ、機能に影響を与える重要なアセンブリの関係であると定義しています。自社の製品を振り返り、品質に反映される重要な特性は何か考えてみてください。高級車のボディの場合、品質指標の1つは常に玉軸受がシームに沿ってスムーズに回転することかもしれません。これはビルドの品質目標になります。ビルドの品質目標は、製品の性能と円滑な製造工程に影響を与えます。

優秀なエンジニアリング チームが、競合製品の評価、ベンチマーク調査、マーケティング要件、品質機能展開(QFD)分析結果、ユーザー要件、故障解析、マニュアル(機構上の関係を説明した機械部品カタログなど)を材料にして、ビルドの品質目標を設定します。

ビルドの品質目標を決め数値化して、測定可に使える目標値を設定したら、後は、この目標値に向かって設計が進んでいきます。たとえば、Ford Motor Companyでは、道路の分岐に関する調査にVaratechのSigmundを使用して、複数ある設計コンセプトのうち、どれが誤差や形状の厳密さという点で相応しい、あるいはしっかりしているのか、
また、あらかじめ定義したビルド品質目標を達成できるのかを判断します。ビルド品質目標をもとに、Sigmundを利用した調査でどの手法(ワースト ケース、Modified RSS、モンテカルロ公差解析)を用いるべきか決定します。従来こうした調査は、手動またはスプレッドシートで行われており、設計で使用するCADソフトウェアと連動していませんでした。そのため、公差/誤差情報の開発、更新、維持は面倒な作業になっていたのです。ところがSigmundを使うと、設計者が客観的なCADデータを使用して、すべてのビルド品質目標を達成する設計か確認してから、設計/金型をリリースすることができます。低品質の製品がもたらす遅延や多額の費用を初期段階から回避できるうえ、必要に応じ後から何度も利用できる参照ベースも確立できます。

Sigmundの実際の役割は、製品開発全体を調整することです。さまざまな意見によって製品の方向性が決まる傾向がありますが、客観的なデータが意見より優先されています。客観的なデータに基づいているため、議論になることはありません。

Glenn Reed氏
機械技術エキスパート

Fordの最優先事項は高品質の設計

Fordは、SigmundとSOLIDWORKS® 3D CADソフトウェアを使用して優れた品質を維持しています。ミシガン州ディアボーンのFordで働く機械技術エキスパートのGlenn Reed氏は、パワー ユーザーの1人です。彼は、SigmundWorks、Sigmund ABA、SOLIDWORKSソフトウェアを使用して、世界各国のサプライヤーやスタッフ エンジニアから届くDVDやCD、ラジオなどのインフォテインメント システムの新設計をチェックします。金型のリリース前に、機能意図に沿っているか、ビルド目標を達成しているか確認するのが仕事です。

Reed氏が設計を始めるときには、IGES、STEP、ParasolidのいずれかのファイルをSOLIDWORKSソフトウェアにインポートします。「SOLIDWORKSは、どんなソースからでも設計をインポートでき、FeatureWorks®でクリーンアップして、パラメトリック設計できる便利なツールです」と彼は言います。

彼はSigmundWorksを使っています。これは、SOLIDWORKSソフトウェア向けのVaratechの解析製品です。認定ゴールド製品のSigmundWorksは、SOLIDWORKSソフトウェアと完全に統合されており、SOLIDWORKSインターフェイス内で動作します。Reed氏は、同時に数千もの「what-if」シナリオを実行して品質評価を行い、寸法や公差、誤差を自由に調整します。

「SigmundWorksのおかげで、最初からビルド要件の定義と把握を行うことができます」とReed氏は述べています。「設計の機能、寸法、公差がコスト、製造の複雑さ、アセンブリといった下流工程に与える影響を把握できます」

Fordで活躍するSigmund

2009年に販売したFord Flexの開発では、エレクトロニクス フィニッシュ パネル(EFP)とセンター フィニッシュ パネル(CFP)間の接触面にある穴パターンとネジボス パターンの調査にSigmundWorksが使用されました。すべての部品を的確にアセンブリし、ボタンを等間隔で配置するために、この調査が実施されました。

EFPは双方向と4方向のロケーターを使用してCFPに設置され、17個のファスナーで固定されます。最初に実施したSigmundWorksの穴パターン照合解析の結果、EFPの直径3mmのネジ穴を使用している5%のアセンブリに問題が見つかりました。そこで、100%予測のビルドになるまでパターン照合解析を実施し、穴を3.8mmまで段階的に拡大しました。「このタイプの穴パターン照合解析は、手動ではできません」とReed氏は言います。「Sigmundのおかげで、サイズと位置公差の観点から必要なものを導き出し、適切なアセンブリを実現できました。簡単でごく短時間に作業を終えることができました」

その他には、ディスクが過度に歪んでいる場合を除き、CDプレーヤーのアセンブリが意図した通りに機能していることも確認できました。ディスクを熱や日光にさらした場合、厳密に言えばそれは利用者の責任です。しかしFordは、SigmundWorksとSOLIDWORKSソフトウェアでディスクガイドの寸法を変更し、より堅牢なシステムに改良して、わずかに反ったディスクでも適切に読み込みと取り出しが行われるようにしました。Fordは、このようにして、設計上の不備を回避しています。

また、発売直前の新モデルに搭載されていたラジオのつまみが、少しぐらつくことを発見した例もあります。機能にはまったく影響のないささいなことですが、品質に対する認識には大きな影響を与えます。そこで、Sigmund ABAアセンブリ ビルド解析ソフトウェアを使用して、2つの合致部品の間にあるわずかな隙間に、見えない「幾何学的に精細な問題」があり、それが犯人であることを突き止めました。つまり、アセンブリの関係によって影響がさらに大きくなるため、わずかなギャップでも大きなぐらつきを感じたのです(手首を少し傾けただけで剣の先端が数フィート動くことをイメージしてください)。別の機能インターフェイスも特定し、すぐに対処してぐらつきを解消しました。Sigmund解析機能による客観的なデータがあるため、安心して射出成形金型を変更することができました。

Fordは通常、アセンブリ設計において、少なくとも5,000もの仮想シミュレーションによるビルドをSigmundで実行します。それは、工場で試作品を5,000個作成し、すべて許容誤差内で異なる誤差の組み合わせで作るようなものです。続いて、Sigmundでビルドのヒストグラムを作成します。設計の初期段階で20%のビルドに欠陥があると、ヒストグラムの両端には、仕様を満たしていないビルドが赤で表示されます。青は使用を満たしていることを意味します。Sigmundでは、想定上の設計ミスとアセンブリ プロセスの平均シフトを事前に特定できます。

Sigmundは、アセンブリ設計をアニメーションでわかりやすく表示します。また数千もの仮想ビルドを繰り返し確認し、完成したコンポーネントに影響を与えるすべての潜在的誤差を即座に図で示します。Sigmundを使うと、設計上は完璧に見えても、製造工程ではそうでないことが理解できます。

その他の事例

Fordは、有限要素解析(FEA)など、その他の解析方法を補完する目的でもSigmundを使用しています。一般的にFEAジオメトリは、決して存在しないノミナル モデルに基づいています。実際の環境で使用するコンポーネントとアセンブリの誤差をFEAジオメトリに追加すると、シミュレーション結果とテストの典型的差異を最小限に抑えることができます。Sigmundは、実際のコンポーネントとアセンブリの誤差を考慮し、逸脱した実際の製造ジオメトリに関する現実的なデータを示します。このため開発部門では、実際に製造される製品をSigmundで解析し、工場出荷時の製品の性能をより正確に把握することができます。

板金のラジオ シャーシの左側の例は、元々の公差が、機構の問題を引き起こす可能性がある正方形以外のボックスを許容していることを示します。ラジオ シャーシの公称ジオメトリのFEA解析(NEiWorksを使用)は、1つの結果を示しました。Sigmundが示した実際の逸脱した筐体ジオメトリは、FEAの結果が大幅に異なる原因となりました。そのまま製造された場合、誤差と荷重がアセンブリに与える複合的な影響によって非常に多くのシャーシが非正方形となり、廃棄処分になる恐れがあったのです。しかし、Fordはこの問題を未然に防ぎ、すぐに設計の調整を取り掛かることができました。

「Fordでは、Sigmundを活用してコンセプト評価、設計、材料の選定、品質管理プログラム、サプライヤーやプロセスの選定を行っています」とReed氏は説明します。「私たちは、新しいルールを作り、すべてのサプライヤーに適用しています。サプライヤーは、金型のリリース前に、シミュレーション ソフトウェアを使用してワースト ケースやModified RSS、モンテカルロ公差解析を実行し、ビルド目標の達成を証明することが義務づけられています。私がこのアイデアを支持していることは言うまでもありません」

プロジェクトの開始時に公差とアセンブリ ビルドの解析を実行するには、ある程度の時間と労力が必要です。しかし、その労力は、廃棄や手戻り、保証請求、リコールで生じる費用や労力に比べれば大きな問題ではありません。

「Sigmundの実際の役割は、製品開発全体を調整することです」とReed氏は言います。「さまざまな意見によって製品の方向性が決まる傾向がありますが、客観的なデータが意見より優先されています。私たちの間では『A、B、Cという設計、それに付随するSigmundの解析結果を見てみよう。見てわかる通り、設計Bは目標を満たしていないから、 品質基準を緩和するか、AかCを選ばなければならないね』というような会話が交わされています。客観的なデータに基づいているため、議論になることはありません。

SigmundWorksは認定ゴールド製品であり、SOLIDWORKSソフトウェア向けのSigmund ABAとSigmund ABA Kinematicsはソリューション パートナー製品です。Fordは、VaratechおよびSOLIDWORKSの認定販売代理店であるDASI Solutionsを通じて、継続的なソフトウェア トレーニング、サポート、導入サービスを受けています。