1964年創立の奈良高専は優秀な技術者を養成し、卒業生 はさまざまな分野で中核の技術者として活躍している。こ れまでは、「いかに作るか」に力点を置いてきたが、今後 は「何を作るか」を考え、付加価値の高い製品で世界と競 争できる人材を育成しようと考えている。そのため、機械 工学の分野であってもデジタル技術を駆使できる人材を育 成するとともに、データを活用したDXものづくり教育に 挑戦している。校内にFABスペースを開設し、金属3Dプリ ンターやレーザーカッターを導入して、アイデアをデータ 化し、自由に出力できる環境を整えた。アイデアをデー タ化するためのツールとして選ばれたのが3DEXPERIENCE Platformである。
「ものづくりの現場では、データがあれば工作機械が自動 的に作ってくれるという時代が来ています。ですから、今 まで重要だった「どう作るか」に加えて、何を実現するの か=「何を作るか」を考えることが重要になります。
奈良高専では全国の高専に先駆けて金属3Dプリンターを導 入し、3D CADでデザインしたデータを出力して、これま ではできないと思われてきた形状も作れるようになりまし た。 機械設計にはさまざまなノウハウがあり、かつては先輩技 術者から盗む・学ぶといわれていましたが、団塊の世代の 大量退職などの影響で現場の人材が不足しています。しか し、3D CADを使って設計し、シミュレーションで解析し、 金属3Dプリンターで出力すれば、設計プロセスと成果を広 く共有でき、盗む・学ぶは不要になります。デジタル技術 を駆使することで、ものづくり環境の変革に対応でき、自 ら価値を創造できる技術者・ハイブリッド人材を養成した いと考えています。
そのためには、まず使ってみて慣れることが大切ですの で、初めからCADを使ってもらう、3Dプリンターを使って もらう、ジェネレーティブデザインをやってもらうという ことを実践しています。
3DEXPERIENCE Platformは、低学年ではxShapeやxDesignで 基礎を学び、高学年でSOLIDWORKSと接続して使うという ように段階を踏んで学ぶことができるのも魅力です」と、 谷口氏は評価する。
高付加価値人材を育成する奈良高専
奈良高専が創立された1964年は日本が高度成長期のまった だ中にあり、安価な大量生産を可能にする技術者が求めら れていた。それから60年近くの年月が経過し、日本の産業 構造は機能・品質重視型へと転換し、高専での人材育成の あり方も変化した。 国立高等専門学校機構では2021年より5カ年計画施設整備を 実施し、全国51校の高専がそれぞれの特長を発揮しながら 共創する「KOSENコモンズ」の実現に向けて、以下のよう な項目に取り組んでいる。
- オンラインと対面によるハイブリッド授業 個別学習の場の設置 ICT環境の整備
- 垣根を越えた交流の促進 アクティブラーニングスペースの整備 オープンラボの整備
- 日常に根ざした国際化 留学生混住型学生寮の整備
- 企業・大学との連携
- 高専のリソースを活用した地域交流・地域貢献
奈良高専は、全国の高専、大学、研究所と連携して超スマ ート社会を実現するための実装技術を開発する中核拠点校 となっている。また、近畿地方の先端研究基盤設備を共同 利用するためのハブとしての役割も担う。このような未来 志向の取り組みからは、ネットワーク化、オープン化、デ ジタル化、国際化といったキーワードが浮かんでくるが、 単にかけ声として終わらせるのではなく、DXものづくり教 育に挑戦している。
FABスペースを用いたDXものづくり教育
奈良高専では、変化するものづくり環境への対応と教育環 境のDX化の両面から校内にFABスペースを開設した。単に 学生の持っているものづくりへの欲求をかなえるだけでな く、デジタルデータを入力すれば安全に加工できるデジタ ル工作機器を揃えているのが特長だ。金属3Dプリンター、 レーザーカッター、卓上ミーリングマシン、電子基板プリ ンターなどを使い、アイデアをすぐに安全に形にすること ができる。 コミュニケーションスペースも設けられているので、同じ データを見ながらディスカッションすることも学生への大 きな刺激になっているという。
「3D CADを使ってモニターの中で形ができましたというだ けでは不十分で、金属3Dプリンターで実際に作られた製品 を触ってみる・使ってみることが重要です」と、機械工学 科准教授の須田氏は語る。