Challenge

エムケー精工社内の各事業部の設計・製造の各現
場では、ソフトウェアをそれぞれで採用し、デー
タ連携に課題が発生し、作業やコミュニケーショ
ン面で非効率な点が目立っていた。製品のライン
アップや機能モジュールが多岐にわたる洗車機に
おいて、2次元CADと紙図面での運用のみでは設
計の管理に無理が生じ始めていた。設計者は派生
機の流用設計に追われ、設計品質向上への取り組
みが十分に行えなかった。

Solution

まずSOLIDWORKSによる3次元設計を導入。2次元
CADメインから3次元CADメインでの設計へシフ
トさせた。その次の段階で、SOLIDWORKS PDMで
取り組み、設計データ一元化とペーパレスの取り
組みを本格的に開始した。さらに「SOLIDWORKS
Simulation」、「SOLIDWORKS Composer」、
「SOLIDWORKS Visualize」、など、SOLIDWORKS
ファミリー製品をフル活用しながら、企画から設
計、製造、保守まで、トータルでの効率化を狙
う。

Results

SOLIDWORKSによる3次元設計の浸透と、PDMに
よる設計データの一元管理を実現し、マスカス
タマイズ設計の効率化およびチーム設計を実現し
た。従来約1カ月かかった試作は、現在は最短で
中1日で行える。設計業務が大幅に効率化された
ことにより、創造性ある設計作業に時間を割くこ
とが可能になり、その結果として個性的かつ魅力
ある新製品の実現へとつながった。

長年家電で培った電子制御技術を活用した洗車機の進化

ガソリンスタンドや洗車場にある洗車機はドライバーにと
って身近な存在だ。国内洗車機メーカーの大手 エムケー精
工は、期待高まるユーザーに応えるべく、日々の設計開発を進化させる。エムケー精工の門型洗車機は大きく「セル
フ洗車機」「スタッフ洗車機」「大型車両用洗車機」の3種
にわかれる。エムケー精工の洗車機はいずれも高度なコン
ピュータ制御技術が駆使されている。車両の形状や寸法を
画像から分析し、適切なブラシの回転数や位置、洗浄方法
を選定する仕組みである。洗車機に本格的な電子制御を取
り入れたのは、国内ではエムケー精工が最初。同社におい
ては洗車機よりも歴史が古い生活家電事業の電子制御技術
が活かされたのである。

同社の洗車機のモデルチェンジサイクルは「5年に1度」
程度。マスターの機械を基本にして、顧客要望に応じて
機種を派生させていくマスカスタマイズ製品であるから
だ。2020年2月にエムケー精工がリリースした新型洗車機
は、洗車筐体上部に鮮やかなLEDライトを配したディスプレ
イをビルトインしている。このディスプレイにはユーザー
の選定した洗車メニューや洗剤の種類、ステータスなどが
カラフルに表示される。洗車が終わるのを待つ人たちが、
「今、あのサービスを使っているようだ。次、自分もやっ
てみようか」と思ってもらえれば、サービスのPRにもつな
がるというわけだ。

このディスプレイは、まるでパチンコやパチスロのディス
プレイのようにも見える。その印象は誤りではなく、実
は、同社のアミューズメント事業で培ったディスプレイの
技術を活用しているのである。

「長年やりたかったことが、ついに実現しました。ディス
プレイの他に、筐体にはこれまでとは雰囲気が違う凹凸感
を加えています」と語るのは、エムケー精工の洗車機のメ
カ設計部隊を率いる、モビリティ&サービス事業部 M&S開
発部 設計―グループ マネージャーの酒井陽三氏である。
これまでは設計体制上、それぞれの機種に強い個性や特色
を出していくことはなかなか難しかったが、今回の新製品
ではその長年の壁をついに突き破った。
エムケー精工がSOLIDWORKSとともに設計改革に取り組んで十数年。かつて「流用設計をこなすので精いっぱいだっ
た」(酒井氏)という状態からスタート。現在はそのよう
な状態から既に脱却し、3次元設計メインのペーパレス管
理に完全移行した。各設計担当の創造性を存分に発揮し、
独創的な新製品が生み出せる環境が実現できてきたといえ
る。

 

PDM導入で急加速した3次元設計推進

かつてのエムケー精工は長年、2次元CADによる設計がメイ
ンで、紙図面ベースの管理体制であった。1人のベテラン設
計者が機械の構想設計を進め、それが大方フィックスする
と、若手設計者が分担して個別で設計する体制になってい
た。2次元メインの設計体制から3次元設計推進となれば、
「抵抗の声はなかったのか」と尋ねると、「実はもともと
私自身が抵抗勢力で、3次元CADから逃げ回っていました」
と酒井氏は笑う。

そんな酒井氏を変えたのが、SOLIDWORKSとの出会いだ。
「いざ使ってみたら、とても面白くて。いつのまにか自分
が推進する立場になりました」(酒井氏)。SOLIDWORKS
の使いやすさや多彩な機能に魅かれ、やがて酒井氏
はSOLIDWORKSの最上位認定資格「CSWE(Certified
SOLIDWORKS Expert)」も取得するまでになった。しかも
認定試験の全科目を制覇!しているという筋金入りのエキ
スパートぶりだ。

エムケー精工が3次元CAD全社導入の検討を開始したのは
2001年のことだ。以前は、社内のさまざまな設計・製造部
門で、それぞれが使いたいソフトウェアを導入しているよ
うな状態だった。そういった体制を改革しようと、同社は
設計と生産管理のツールを3次元CADで統一しようと乗り出
した。

特に、酒井氏が所属するモビリティ&サービス事業部で取
り扱う洗車機は顧客要望により製品を細やかにカスタムす
る、いわゆるマスカスタマイズ製品である。製品ラインア
ップは約700機種で、機能モジュールは1200種ほど。機械1
台当たりの部品点数は数万点に上る。設計仕様の管理は非
常に入り組んでいた。それ故に、部門間の情報のやり取り
や作業では無駄や混乱が生じており、それがミスやエラー
を誘発していた部分もあった。

当初はエムケー精工でさまざまなブランドのミッドレンジ
3次元CADを試していた。約1年かけて検討し、最終的に
SOLIDWORKSが選定されて全社導入された。「当社の機械
はさまざまな加工法の部品を使います。SOLIDWORKSは当
時から既に、板金、溶接、成形、自由曲面とさまざまな機
能を備えていたところが決め手になりました」(酒井氏)
エムケー精工でSOLIDWORKSの本格運用が始まり、しばら
くは個々の設計作業の最適化を図った。設計物の構造が直
感的に理解しやすくなった他、干渉チェックも有効で、2次
元CADと紙図面ではあっさり見落としていたようなミスが
削減された。

しかし社内でSOLIDWORKSの活用が進み、3次元の設計デー
タが大量に流通してくると、さらなる課題が酒井氏を悩ま
せた。「3次元データは、社内のサーバーの決められたとこ
ろに管理するようにしていました。しかし、一体どれが親
なのか、どれが最新なのか、誰が上書きしたのか…、制御
し切れなくなりました」(酒井氏)。

そこで白羽の矢がたったのが「SOLIDWORKS PDM Professional」
である。2009年から導入したSOLIDWORKS PDMで、3次元
モデルの作業履歴やアクセス権限などを管理し、3次元デー
タの交通整理を進めると、酒井氏を悩ませていた問題は一気に解消。設計変更や修正の反映モレ、勘違いなどから発
生するミスは大幅に削減された。また、基にすべき設計デ
ータやチーム内の作業進捗が、誰でも把握できるようにな
り、1つの設計を数名体制で一気に進められるようになっ
た。ここから3次元設計は急加速した。

SOLIDWORKSの3次元データの活用シーンは設計以外へも
広がり、ペーパレス化を実現した。まず「SOLIDWORKS
Composer」を使って、取扱説明書作成の効率化とペーパ
ーレス化を図った。過去には実機写真や3次元データのキ
ャプチャーなどから紙の取扱説明書を作るしかなかった
が、SOLIDWORKS Composer を使えば、SOLIDWORKSのデ
ータから自由自在に指示画像や動画を作ることが可能にな
った。「使い方は簡単で、作りたい資料がぱっと作れると
ころが一番いいですね。お客さまに製品の使用法など説明
する場合にも、その場で指示動画を見せて説明できて便利
です」(同社 モビリティ&サービス事業本部 M&S開発部
設計―グループの古瀬大貴氏)。

SOLIDWORKSのデータから3D CGのレンダリングや動画作
成ができる「SOLIDWORKS Visualize」のデータを見せなが
ら、顧客との打ち合わせも行う。「実機が完成する前に、
設計中の製品のイメージを見せることができ、紙のプレゼ
ン資料より格段に伝わりやすくなりました」と酒井氏は話
す。

納品先のスペースや仕様によって洗車機は大きさに制限があります。
その制約の中で、機構をいかに組み込んでいくか、いつも苦労してきたところです。さらに機能アップしていく
となると大変です。「SOLIDWORKS」は3 次元データなので、スペースや奥行が把握しやすく、設計している製品をイメージしやすい。
今回の新製品には過去にはなかった自由曲面の形状が加わっています。
SOLIDWORKS のサーフェスモデリングの機能は、サーフェスを扱うのが初めての私でも問題なく使えました

春原 崇氏
モビリティ&サービス事業 本部 M & S 開発部 設計―グループ

SOLIDWORKS力でスピードと想像力を手に、エムケーを継ぐ者たちの成長

エムケー精工では2012年から、構造解析「SOLIDWORKS
Simulation Premium」、流体解析「SOLIDWORKS Flow
Simulation」を導入している。導入当初は操作教育と座学
教育に投資したという。酒井氏自身と設計チームメンバー
たちは実習に参加して知識を底上げしつつ、実務の中でど
んどん活用しながら、この数年間で力を付けていった。
これらのシミュレーションツールを使うことで、実機試作
する前に、設計案の候補をシミュレーションの中であらか
じめブラッシュアップすることが可能になった。設計した
後は、社内の生産技術部門がPDMから直接設計モデルを確
認し、試作を開始する。以前のように、その都度図面を出
して依頼を出さなくてもよくなり、工数もストレスもかな
り減ったという。

「以前の試作は外注に出していたので、1回当たり1カ月く
らいかかっていました。それが今は社内に依頼後、中1日程
度で試作品ができます。過去には考えられなかった世界で
す」(酒井氏)

新製品の洗車機で真空成型や鋳造による内製部品が採用で
きたのは、SOLIDWORKSとシミュレーションツールの力が
大きかったという。従来、同社の洗車機は板金部品を中心
に構成してきたため、複雑で自由曲面を伴った形状をした
部品を成形で製作することは少なかった。
今回、成形部品の設計を担当したのは、同社 モビリティ&
サービス事業本部 M&S開発部 設計―グループの春原(す
のはら)崇氏だ。「曲面を多用した複雑な形状を製作する
際、意匠デザイナーが作成したサーフェスモデラーによる
3Dモデルを依頼していました。今回は、私がサーフェス
のデータをデザイナーからもらって、SOLIDWORKSのサー
フェス機能を使い、合わせ面やパーティングラインなどを
検討しました。デザイナーの考案した形状を忠実再現しな
がら、製作可能な部品になるように努力しました」(春原
氏)。

意匠面が複雑なモデルを設計者が扱うこと自体が、モビリ
ティ&サービス事業本部では初のことであり、「自分自
身でも曲面を扱うのは初めてだった」と春原氏は話す。春
原氏は、同社の生活家電部門のサーフェスモデリングに詳
しい設計者にアドバイスをもらいながら対応していったと
いう。手直しした形状に対し、SOLIDWORKS Simulationを
使って十分な強度を保てるか検討。意匠デザイナーに対し
ても、シミュレーション結果の画像を見せながら説明する
と、よく理解してもらえたという。

ベテランの酒井氏を継ぐ、中堅や若手の設計者たちは順調
に成長している。「最近はもう皆に細かいことは口出しし
ていません。今後、設計実務はすべて部下に任せて、自分
は新しい製品や設計のアイデアなどを考える立場になりた
いですね。ただしそれには、まだ少しだけ時間がいるかも
しれませんが」と酒井氏は話す。ベテランたちが長年培っ
てきた技術や経験は、PDMを利用してうまく継承していき
たいと考えている。

酒井氏は、「トポロジー最適化を利用した架台設計や、
『eDrawings』を用いたVRデータ活用など、これからも皆
でチャレンジします」とさらなる新しいツール活用へ意気
込みを見せた。