長年家電で培った電子制御技術を活用した洗車機の進化
ガソリンスタンドや洗車場にある洗車機はドライバーにと
って身近な存在だ。国内洗車機メーカーの大手 エムケー精
工は、期待高まるユーザーに応えるべく、日々の設計開発を進化させる。エムケー精工の門型洗車機は大きく「セル
フ洗車機」「スタッフ洗車機」「大型車両用洗車機」の3種
にわかれる。エムケー精工の洗車機はいずれも高度なコン
ピュータ制御技術が駆使されている。車両の形状や寸法を
画像から分析し、適切なブラシの回転数や位置、洗浄方法
を選定する仕組みである。洗車機に本格的な電子制御を取
り入れたのは、国内ではエムケー精工が最初。同社におい
ては洗車機よりも歴史が古い生活家電事業の電子制御技術
が活かされたのである。
同社の洗車機のモデルチェンジサイクルは「5年に1度」
程度。マスターの機械を基本にして、顧客要望に応じて
機種を派生させていくマスカスタマイズ製品であるから
だ。2020年2月にエムケー精工がリリースした新型洗車機
は、洗車筐体上部に鮮やかなLEDライトを配したディスプレ
イをビルトインしている。このディスプレイにはユーザー
の選定した洗車メニューや洗剤の種類、ステータスなどが
カラフルに表示される。洗車が終わるのを待つ人たちが、
「今、あのサービスを使っているようだ。次、自分もやっ
てみようか」と思ってもらえれば、サービスのPRにもつな
がるというわけだ。
このディスプレイは、まるでパチンコやパチスロのディス
プレイのようにも見える。その印象は誤りではなく、実
は、同社のアミューズメント事業で培ったディスプレイの
技術を活用しているのである。
「長年やりたかったことが、ついに実現しました。ディス
プレイの他に、筐体にはこれまでとは雰囲気が違う凹凸感
を加えています」と語るのは、エムケー精工の洗車機のメ
カ設計部隊を率いる、モビリティ&サービス事業部 M&S開
発部 設計―グループ マネージャーの酒井陽三氏である。
これまでは設計体制上、それぞれの機種に強い個性や特色
を出していくことはなかなか難しかったが、今回の新製品
ではその長年の壁をついに突き破った。
エムケー精工がSOLIDWORKSとともに設計改革に取り組んで十数年。かつて「流用設計をこなすので精いっぱいだっ
た」(酒井氏)という状態からスタート。現在はそのよう
な状態から既に脱却し、3次元設計メインのペーパレス管
理に完全移行した。各設計担当の創造性を存分に発揮し、
独創的な新製品が生み出せる環境が実現できてきたといえ
る。
PDM導入で急加速した3次元設計推進
かつてのエムケー精工は長年、2次元CADによる設計がメイ
ンで、紙図面ベースの管理体制であった。1人のベテラン設
計者が機械の構想設計を進め、それが大方フィックスする
と、若手設計者が分担して個別で設計する体制になってい
た。2次元メインの設計体制から3次元設計推進となれば、
「抵抗の声はなかったのか」と尋ねると、「実はもともと
私自身が抵抗勢力で、3次元CADから逃げ回っていました」
と酒井氏は笑う。
そんな酒井氏を変えたのが、SOLIDWORKSとの出会いだ。
「いざ使ってみたら、とても面白くて。いつのまにか自分
が推進する立場になりました」(酒井氏)。SOLIDWORKS
の使いやすさや多彩な機能に魅かれ、やがて酒井氏
はSOLIDWORKSの最上位認定資格「CSWE(Certified
SOLIDWORKS Expert)」も取得するまでになった。しかも
認定試験の全科目を制覇!しているという筋金入りのエキ
スパートぶりだ。
エムケー精工が3次元CAD全社導入の検討を開始したのは
2001年のことだ。以前は、社内のさまざまな設計・製造部
門で、それぞれが使いたいソフトウェアを導入しているよ
うな状態だった。そういった体制を改革しようと、同社は
設計と生産管理のツールを3次元CADで統一しようと乗り出
した。
特に、酒井氏が所属するモビリティ&サービス事業部で取
り扱う洗車機は顧客要望により製品を細やかにカスタムす
る、いわゆるマスカスタマイズ製品である。製品ラインア
ップは約700機種で、機能モジュールは1200種ほど。機械1
台当たりの部品点数は数万点に上る。設計仕様の管理は非
常に入り組んでいた。それ故に、部門間の情報のやり取り
や作業では無駄や混乱が生じており、それがミスやエラー
を誘発していた部分もあった。
当初はエムケー精工でさまざまなブランドのミッドレンジ
3次元CADを試していた。約1年かけて検討し、最終的に
SOLIDWORKSが選定されて全社導入された。「当社の機械
はさまざまな加工法の部品を使います。SOLIDWORKSは当
時から既に、板金、溶接、成形、自由曲面とさまざまな機
能を備えていたところが決め手になりました」(酒井氏)
エムケー精工でSOLIDWORKSの本格運用が始まり、しばら
くは個々の設計作業の最適化を図った。設計物の構造が直
感的に理解しやすくなった他、干渉チェックも有効で、2次
元CADと紙図面ではあっさり見落としていたようなミスが
削減された。
しかし社内でSOLIDWORKSの活用が進み、3次元の設計デー
タが大量に流通してくると、さらなる課題が酒井氏を悩ま
せた。「3次元データは、社内のサーバーの決められたとこ
ろに管理するようにしていました。しかし、一体どれが親
なのか、どれが最新なのか、誰が上書きしたのか…、制御
し切れなくなりました」(酒井氏)。
そこで白羽の矢がたったのが「SOLIDWORKS PDM Professional」
である。2009年から導入したSOLIDWORKS PDMで、3次元
モデルの作業履歴やアクセス権限などを管理し、3次元デー
タの交通整理を進めると、酒井氏を悩ませていた問題は一気に解消。設計変更や修正の反映モレ、勘違いなどから発
生するミスは大幅に削減された。また、基にすべき設計デ
ータやチーム内の作業進捗が、誰でも把握できるようにな
り、1つの設計を数名体制で一気に進められるようになっ
た。ここから3次元設計は急加速した。
SOLIDWORKSの3次元データの活用シーンは設計以外へも
広がり、ペーパレス化を実現した。まず「SOLIDWORKS
Composer」を使って、取扱説明書作成の効率化とペーパ
ーレス化を図った。過去には実機写真や3次元データのキ
ャプチャーなどから紙の取扱説明書を作るしかなかった
が、SOLIDWORKS Composer を使えば、SOLIDWORKSのデ
ータから自由自在に指示画像や動画を作ることが可能にな
った。「使い方は簡単で、作りたい資料がぱっと作れると
ころが一番いいですね。お客さまに製品の使用法など説明
する場合にも、その場で指示動画を見せて説明できて便利
です」(同社 モビリティ&サービス事業本部 M&S開発部
設計―グループの古瀬大貴氏)。
SOLIDWORKSのデータから3D CGのレンダリングや動画作
成ができる「SOLIDWORKS Visualize」のデータを見せなが
ら、顧客との打ち合わせも行う。「実機が完成する前に、
設計中の製品のイメージを見せることができ、紙のプレゼ
ン資料より格段に伝わりやすくなりました」と酒井氏は話
す。